【映画レビュー】「犬王」
ロックな映画だった。
本作は、平家物語を題材に琵琶法師の友魚と能楽師の犬王の生き様を描いている。
平家物語は口伝(声で語られる)物語である。
そのため、文字の読めない庶民階級の人々にもその物語が伝わっていった。
テレビも携帯もなかった当時の人々は、平家物語が広まっていったこの瞬間に、
日本という国の存在を、
もしくは自分自身を、歴史のコンテクストの中で初めて意識できるようになったと思われる。
そのため、平家物語の影響力は非常に大きなものであったはずである。
これだれ大きな影響力を持つ平家物語であるため、時の権力者が複数の平家物語が存在する事を良しとしなかった。
権力者としては、自身に都合の良い物語だけ残したいだろう。
しかし、平家物語は(もしくは何かを語るという行為は)、亡くなっていった人々の思いを代弁し鎮魂するという役割も持つ。
犬王と友魚は、
圧政の下、語られることなく亡くなっていった人々の声を集めて代弁した。
圧力にも屈せず、勝者の歴史に埋もれてしまっていた声を集めて物語を紡ぐ姿は本当にロックであった。
この映画を観ている時に、小説家の北村薫さんの言葉が浮かんだ。
「小説が書かれ、読まれるのは人生がただ一度であることへの抗議からだと思います」
私がこのブログを書いているのも、
たった一度の人生に対する小さな反抗かもしれない。